L'oiseau bleu〜46〜
ひとつずつ、咲いている花にそっと指先をはわせていく。そして、すっかりその花弁をしぼませ頭を垂れているものを見つけ出す。もう咲き誇る力を失ったそれは、ほんの少し力を入れるだけで、ぷつりと茎から離れていった。
「様、そろそろ中に入りませんと。日暮れの風は身体を冷やしますよ」
バルコニーに並べた鉢で育てていた花たちが姿を変えるように、アルケイディスの夏も終わりを告げようとしていた。マーサの言葉通り、肌を撫でていく風は日に日に涼しさを増している。「さあ」と今一度促され、部屋の中へ入ろうとした時、耳に届いてきた音に私は顔を上げた。
「今日も随分多いですわね―――」
「……そうね……」
通り過ぎていったのは、皇帝宮の方角から飛んできた飛空挺の音。今日この音を耳にするのは5度目だ。
「様!」
買い物に出ていたマーサが切らせた息を整えないまま、軍の艦隊が消息を絶ったらしいと私に告げたのは2週間前のことだった。公には発表されてはいないけれど、街ではその噂で持ちきりだったという。
「ダルマスカ軍の残党に襲撃されたとか、エンジントラブルで爆発したらしいだとか、噂は様々なのですが……」
「ノアは!?ノアはその艦には乗っていないわよね!?」
詳しいこと話さないけれど、ここ最近はラバナスタへと赴くことが多かったノア。消息を絶ったその艦隊の行く先がラバナスタだったらしいとの話と、ノアがここ2週間、この部屋を訪れていないことを思い、さらに不安が募る。もしその艦にノアが乗っていたのだとしたら。けれど、まさに私たちがノアの無事を確かめる術を模索していたその時、ノア自身が私たちの前に現れたことで、その心配は杞憂に終わった。
けれど―――。
以前よりも確実に数を増した軍の飛空挺。そして、何かを思いつめているのではないかと感じさせるようなノアの声。
「また、戦争が始まるの……?」
「―――心配しなくていい」
思わず不安を口にした私の頬に触れ、ノアは静かにそう言うだけだった。
「さあ様、参りましょう」
マーサにそっと背を押され、室内へと足を向けた私の頭上を再び数機の飛空挺が通り過ぎていった。
2012.2.11
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