L'oiseau bleu〜22〜



あなたを想うことは、許されないことだと思っていた。





どんなに自分自身に言い聞かせても、もう自分の気持ちを消し去ることも、偽ることも出来なかった。ならばせめてこの想いは胸の中にとどめたままノアの傍から離れよう。きっと私の想いはノアを困らせてしまうだけだ。愛されようなんて、私にはそんなことを思う資格さえないのだから。


けれど―――。









低く、優しい声が何度も耳元で聞こえた。

「ノ、……」

それに応えたいのに、ノアの手で、唇で与えられる熱に体中が包まれて、言葉がうまく出てこないのがもどかしい。


こんなにも優しくされるのは初めてだった。ノアは、まるで私の傷を癒すように、少しずつそっと私に触れていく。そのたびに、私を覆いつくしていた傷だらけの殻が1枚ずつはがれていくようだった。それが酷く嬉しいはずなのに、なぜか涙が止まらない。その涙の意味を別の物だと感じたノアが、心配そうに私の名を呼ぶ。

違うのだと、そう伝えたいのに、やっぱり私の口からは途切れ途切れの言葉しか出てこない。それならばせめて少しでも想いが伝わるようにと、腕を伸ばした先にある温もりをただ抱きしめた。


大きくて、力強い。けれど、どこまでも優しいその温もり。たくましい腕が、私をきつく抱きしめ返す。

こんなにも人の温もりが優しいものだなんて、今まで知ることさえ出来なかった。



「ノア、愛してる―――」



あなたの温もりを感じながら意識が溶かされる瞬間、やっと唇でかたどることが出来た言葉が、ちゃんとあなたに届けばいいと、そう願った。








聴こえてくる鳥の鳴き声に、朝が来たことを知る。身体を起こそうと思うけれど、まだぼんやりとした意識と、少し重い身体がそれをやんわりと押しとどめる。温もりが残るシーツに深く身を委ねれば、よみがえる記憶。




全てを吐き出した私を、ノアはその腕に包み込みこんでくれた。こんな私でも、傍にいて欲しいと、そう言ってくれた。


『愛している』


その広くて温かな腕で私を抱きしめ、思いもよらなかった言葉をくれた。




もしかしたらあれは夢だったんじゃないかと、そう思うけれど、隣に感じる温もりが、あれは夢じゃなかったと、そう教えてくれる。



「ノア……」

どうしても抑えきれず、起こしてしまわないように、囁くように小さな声でその温もりの主を呼んでみた。


「目が覚めたか?」

返事があるとは思っていなかった私は、その声に酷く驚いた。

「すまない、驚かせてしまったな」

そっと、頬にノアの手のひらが触れる。私はその手に自分の手を重ねた。


―――温かい。


光など、もう長い間見ていないのに。今も、私の目には暗闇しか映っていないのに。それなのに、なぜか暖かな眩しい光に包まれているような、そんな気がした。



「おはよう、

額に、瞼に、そっとノアの唇が触れる。

「―――ノア」




泣きたくなるほどの幸福に瞳の奥が熱くなる。唇に触れる優しい感触に目を閉じながら、私は再びその温もりに身を委ねた。




2010.12.26

back /  next