「今何時だと思ってるの?」
ちらりと顔を上げてそういえば、ばつの悪そうな顔のウォースラが「う…」と言葉に詰まった。
「す、すまん。いや、ここへ来る途中でバッシュに会ってな、
どうしても話があるからと無理やり砂海亭につき合わされ―――」
「バッシュさんなら、だいぶ前にここで会ったけれど?」
にっこり笑ってそう言ってやれば、ますますウォースラは肩をすくめた。
「大方、軍の人たちに誘われて断れなかったんでしょう?
本当はもっと早く抜け出すつもりだったけれど、引き止められてそうもいかなくなって…」
ふう、とため息をつけば、図星だったのかまたウォースラが「むう」と唸った。
その誠意を、ちょっとでも私にも向けて欲しいのだけれど。
別のところで私のことも本当に大事に思ってくれているってことは、ちゃんとわかってる。
でもたまには、少しくらい拗ねてみてもいいでしょう?
「あー、寒い!こんな寒空で3時間も待ちぼうけくらったから風邪ひいちゃうかも!」
「す、すまん!と、とりあえず、どこか温まるところに……うおっ!」
その鍛えられた身体に思い切り抱きつくと、ウォースラは驚いたように声を上げた。
「ちょっとだけこうやってて。その方が暖かくなるから」
照れ屋なウォスは、誰かに見られてやしないかときょろきょろと辺りを窺っている。
その仕草がなんだか可愛くて、わざともっと抱きついてみた。
「もう、次はないからね?」
「う、うむ。わかっている」
周りを気にしながらも神妙な顔で頷いたウォスにキスをしたら、そろそろ許してあげようかな。