「なぜそんなに不機嫌な顔をしているんだ?」

先ほどから分厚い本に目を落としていたヴェインが、やっと顔を上げた。
私は口を尖らせて、恨めしげに言葉をつなぐ。

「だって、せっかく一緒にいるのに全然相手をしてくれないんだもの」


恋人、と呼べる関係ではあるのだけれど、この男は全くそんなそぶりは見せない。
幼馴染だった頃と全く変わらない態度に、私はいつもやきもきさせられている。


「おまえもたまには本でも読んだらどうだ?」
「……父様みたいなこと言わないで」

ヴェインはくすりと笑った。その笑みが、ますます私を不機嫌にさせる。

「おまけにこの部屋寒い!皇宮の中だなんて思えない!」
「暑すぎるのは好みじゃない。わざとクリスタルの力を抑えている」

反論する気も失せて、そっぽを向いていれば珍しくヴェインが私の名を呼んだ。
ちらりとヴェインに視線をやれば、なぜかヴェインが腕を広げている。

「な、なに……?」
「寒いのだろう?」

あのいつもクールな瞳が、私に『おいで』とそう言っている。
ドキドキ、というよりはおそるおそる近づけば、
ヴェインが私の腕を取ってその胸に引き寄せた。

「どうだ?少しはましになったか?」
「……う、うん」

思わぬ出来事に真っ赤になってそう答えれば、ヴェインは相変わらず余裕のある微笑を私に向けた。

「……もう、普段からそれくらい優しくしてくれればいいのに」
「私はいつでも優しいつもりだが?」

にやりと笑ったヴェインに、私はやっぱり降参するしかないらしい。