カタン、と窓が開く音がした。
けれど気づかない振りをしてそのまま夜空を見上げていれば、大げさなため息が聞こえた。

「まったく、あなたという方は……」

その呆れたような声とともに、ふわりと肩にショールがかけられる。

「ありがとう、ガブラス」

顔を上げてそう言えば、やはり呆れたような、困ったような顔でガブラスがこちらを見ていた。

「今夜は冷え込みが厳しい。こんなところにいては風邪を召されます」
「うん、でももう少しだけ。こんな日はね、星が綺麗なのよ」

ほら、と空を指差せば、微かに眉間に皺を寄せてからガブラスも空を仰いだ。
すると、いつも固い表情が多い彼の顔がふっと緩む。

「―――ああ、本当ですね」

そんな顔を見れたのが嬉しくて、思わずガブラスの手に自分の手を伸ばした。
驚いたように、ガブラスが顔をこちらに向けた。

「ごめん、やっぱり少し寒いかも」
「……私の手は、それほど暖かくないのではないですか」

剣を握り続けたその手は、大きくて少し固い。けれど私はその手が好きだった。
私をいつも守ってくれる、温かくて優しい手。
心の奥に秘められたガブラスの優しさが手を通して伝わってくるような、そんな気がした。


「好きよ」

そう言った私を抱き寄せたあなたの腕の中で、
この幸せが続きますようにと、そっと星に願った。