雨上がりと君の笑顔



宿屋のテラスに出ると、雨がしとしとと降り続いていた。

「まだ、止みそうにないかい?」

声の主は、同じようにテラスに出てきたバッシュ。

「うん。もう3日も降ってるのに。せっかくフォーン海岸にいるのに、泳ぐことも出来ないわ」
「ヴァンは昨日泳いでいたぞ」
「でも、さっき会ったら鼻声だった。晴れたお日様の下で泳がなきゃ、さすがに風邪ひいちゃうわよ」

「そうだな」とバッシュは苦笑いをこぼした。


フォーン海岸に来たら、やりたいことがいっぱいあったのに。

この青い海で泳ぐことももちろんだけれど、木陰でお昼寝したりとか、夕暮れの海を眺めながら散歩したりとか。
もちろん、それはバッシュと一緒に、が前提なんだけれど。


そんな私の気持ちを、この人は気づいているのかな。


そう思って少し落ち込んでいると、私の横をヴァンが歓声を上げながら通り過ぎていった。

「ちょっと、ヴァン!また風邪ひいちゃうって!」

慌ててそう言うと、すでに腰まで海に入っていたヴァンは大声で叫んだ。

「だーいじょうぶだって!ほら!晴れてきたぞ!」

その言葉に顔を上げれば、さっきまで空を覆っていた雲はいつの間にか少しずつ去り、
その隙間から太陽のまぶしい日差しが差し込んできていた。

と、不意に私の右手が温かい何かに包まれた。

驚いて顔を向けると、バッシュが私の手を引いて歩き出していた。

「ば、バッシュ!?」

赤くなる頬を隠すことも出来ずにそう問えば、バッシュはにっこりと笑って私を見た。


「さあ、雨の間に出来なかったことをたくさんしないといけないんじゃないか?」


太陽とバッシュの笑顔が重なって、私は眩しさに目を細めながら大きく頷いてバッシュのたくましい腕に飛びついた。




title from 『確かに恋だった』より「雨降りに恋10題」