いつか巡り来る日に



「ねえ、ウォースラは恋をしたことがある?」
「は?」


あまりに突然に投げかけられた質問に間抜けな声が出てしまった。
そのままの顔で問いを発した主を見れば、至極真面目な顔でこちらを見ている。


こほんと咳払いをして気を取り直す。


「ま、まあ、私もいい歳ですからそれなりには……」
「そう」


俺の答えに主は軽く相槌を打つと、視線を窓の外へと移した。


「―――普通は恋をして、その人とこの先も共にありたいとお互いが願って結婚するのよね」


そう呟いた主の言葉に、俺はなぜこの方が先ほどの問いを俺に投げかけたのか、その理由に気づいた。



目の前の主は、この国の第一王女。
まだ13歳になられたばかりではあるが、あと数年もしないうちに未来の夫となる方が
ご本人の意思とは別のところで必然的に決まってしまうことだろう。

もし王家に生まれていなければ、まだ見ぬ恋に思いを馳せて胸をときめかせている年頃のはず。
それが出来ぬことをすでに覚悟しているその姿に胸が痛んだ。



「私は―――」


口を開いた俺の顔を主が見上げる。


「この歳まで勝手をしてきましたが、おそらくこのままでは親に薦められるまま妻を娶ることになるでしょう」
「……あなた自身が決めた人ではなくて?」
「残念ながら今はそのような女性はおりませんし、家のためを思えばそうするのがいちばんかと―――」


主は僅かに戸惑ったような表情を浮かべた。


「……それで、あなたはいいと思うの?」


俺は「ええ」と頷いた。


「それも、ひとつの運命だと思えるような気がするのです」
「運命?」
「この世界に数え切れないほどいる人々の中で、たったひとりの相手が選ばれ、私の伴侶となるのです。
それこそ、運命の出逢いではないかと―――」


主は驚いたように目を丸くしてから、不意に笑い声をこぼした。


「ウォースラって、意外とロマンチストなのね」
「バッシュほどではありません」


思い当たる節でもあったのか、主はおかしそうにますます声を上げて笑った。
その姿は街にいる同じ世代の少女となんら変わりはない。
僅かに垣間見えたその様子に目を細める。



「ですから―――。きっとアーシェ様にも運命の相手に巡り会えます。私はそう信じています」


俺の言葉にアーシェ様はふっと微笑んで、穏やかに口を開いた。


「そうね、楽しみにしているわ」




どうか、この国と共に、あなたの未来にも幸福が訪れますように―――。