あの一瞬のキスを



「私にはこれから為さねばならないことがある―――」


そう言ってあの人が私の前から姿を消したのはいつだっただろう。
もう1年以上になるような気もするし、つい昨日のことだったようにも思う。


元から口数の多い人ではなかったけれど、あの日は特に寡黙だった。


「ヴェイン様。ご武運を―――」

そう言って見送るしかなかった私の横を、あなたは何も言わぬまま通り過ぎていった。



ただひとつ、掠めるだけの優しいキスだけを残して―――



title from 『確かに恋だった』より「そしてまたキスをする」