「本日は夕刻から陛下主催の晩餐会がございますので、それまでにご準備を整えられますよう。開会の10分前には私がお迎えに上がります」

堅苦しい顔で、堅苦しい連絡事項を淡々と述べる男を、私は恨めしげに見つめた。

何よ。せっかく2人きりだっていうのに、仕事モードの顔しちゃって。おまけに遠征だったか視察とかで、会えるのは2週間振りだっていうのに。

「……何か?」
「別に。なんでもないわ」

私の視線に気付いたノアが、訝しげに私を見つめた。

「そうですか」と言って、また仕事モードになった顔をじっと見つめていると、今度は眉根を寄せてこちらを見た。

「2週間ぶりだって言うのに、全然嬉しそうじゃないのね。さすが優秀な第9局のジャッジ・マスター、ジャッジ・ガブラス」

悔しいから、私も仕事モードの呼び名で呼びかけてやった。

「何を拗ねておいでですか」
「拗ねてないわよ」

そう言いつつも、なんだか無性に頭にきて、私はソファにさらに深く座るとノアから顔を逸らした。

「ラーサーから聞いたんだけど、この2週間、ドレイスも一緒だったみたいね」
「ええ、今回は4局と合同の任務でしたので……」
「ふうん、そうなんだ」

と、不意に私の周りが陰った気がした。顔を上げると、いつの間にか私の座るソファの前まで歩み寄ってきていたノアの姿。
「な、なによ」

睨み返す私に、ノアは膝をつき、私と同じくらいに目線を下げた。

「あなたは、寂しかったのですね」
「なっ、寂しくなんか……」
「それに、やきもちまで妬いてくださっていたのですね」

ズバリ言い当てられて、私は自分でも顔が真っ赤になったのがわかった。あたふたしていると、ノアはさらに私に近づいてくる。

「の、ノアっ!晩餐会の準備を……っ」
「大丈夫です。時間はまだたっぷりあります」
「たっぷりって……っ!」

その先は、ノアの唇によって遮られてしまった。押し返そうにも、甘い感触を抗うことが出来ない。そして、ゆっくりと唇を離すと、ノアはにやりと音が聞こえてきそうなほど怪しく微笑んだ。

「そんな可愛らしいことを言うあなたが悪い」
「わ、私は……っ」

抵抗しようとする私の耳元で、ノアは艶のある声で囁く。


「今さら後悔したって遅い」


流されるのも、悪くないかもしれない。





title from 『確かに恋だった』より「偉そうな彼のセリフ」