A certain feeling



「ここ空いてるか?」

そう声をかければ、男は口元まで持ち上げていたスプーンを一度下ろして
「ああ」と人のよさそうな笑みを浮かべた。

トレーを置いて椅子に腰掛け、ちらりと目の前の男の顔を窺うと、実に美味そうにもくもくとスプーンを口に運んでいる。

「おい、おまえ、どこで剣を学んだ」

同じように飯を口に運びながらそう問えば、男は柔らかそうな金髪を揺らしてふと顔を上げた。

「……俺か?」
「ああ、おまえだ」

数日前の演習場で隊が違うため初めて目にしたこの男の剣捌き。
このダルマスカ軍ではあまり見ないその太刀筋に俺は興味がわいていた。

「祖国の騎士団に所属していた時に学んだよ」
「祖国?」
「ああ―――ランディスだ」

男はそう言うと、小さく笑みを浮かべて目を伏せた。

ランディス共和国―――。
ダルマスカよりも遥か西に位置していた国は、数年前にアルケイディア帝国に侵攻され滅ぼされたと聞く。
それならばこの男は、その後このダルマスカに移り住み、再び剣を取ることを望んだということなのか。

どう言葉を掛けるべきか思い悩んでいると、食事を終えた男が口を開いた。

「ダルマスカの出ではないとよくわかったな、アズラス」
「……なぜ俺の名を―――。そうか、父親の七光りで軍に身を置いているという話でも聞いたか」

苦笑いを浮かべてそう告げる。
たとえ事実はそこになくとも、そう噂するやつらはどこにでもいるものだ。
どんなに努力をしても、それさえも親の力の賜物だといわれればたまったものではないのだが―――。

「ん?そうなのか?」

不思議そうな顔をして男は首をかしげた。

「いや、俺はここの出身ではないからそれは知らなかったのだが……。
ただ、君の剣捌きが他のものたちよりも格段に磨かれているから、些細な違いにも気づいたのかとそう思ったんだ」

相変わらず人のよさそうな笑みを浮かべ、まっすぐにこちらを見る男の顔に不思議とおかしさがこみ上げた。

「どうした……?何か俺はおかしなことでも言っただろうか……」
「いや、違う。すまん」

ふうと息を吐いてから、男に問う。

「おまえ、名はなんという」
「あ、ああ。バッシュだ。バッシュ・フォン・ローゼンバーグ」
「酒は?いける口か?」
「嫌いではないが……」
「よし、じゃあ今夜は付き合え。ラバナスタ一美味い酒場に案内してやる」

そう告げて席を立とうとした俺を、男―――バッシュが慌てて呼び止める。

「おい、アズラス―――」
「ウォースラでいい。おまえとはいい話ができそうだ、バッシュ」

その言葉に、バッシュがふっと笑みを浮かべ頷いたのを確認してから立ち上がる。

「楽しみにしてるよ、ウォースラ」

背中に届いた声に軽く右手を上げ、これから先楽しくなりそうだと、そう思った。