無防備な素肌



そっと寝室のドアを開け、窓際に置かれたベッドへと近づく。1人で眠るに少し大きなそのベッドに腰掛け、私はブランケットからのぞいている黒髪を撫でた。

「……ザルガバース?」

まだぼんやりとした声で私の名を呼ぶのは、私のかけがえのない可愛い恋人、。眠りの世界から呼び戻されまだ意識も覚醒しきっていないはずなのに、その愛らしい声で私の名を呼ぶ彼女が愛おしい。

「すまない、起こしてしまったね」
「……ううん、平気。それよりも眠ってしまっていてごめんなさい」
「いいのだよ。今日来ることは君に伝えていなかったのだから。本当はそのまま帰ろうかとも思ったのだが、どうしても君に会いたくなってしまってね」

そう言えば、は嬉しそうに微笑んでその腕を伸ばし私の首にしがみついてきた。

「嬉しいわ、ザルガバース……私もあなたに会いたかった」

私はそれに応えるように彼女の華奢な身体を抱きしめる。

「でも、こんなに遅くまでお仕事だったのならお腹がすいたでしょう?―――リゾットと…それとアボカドのサラダでいいかしら。それならすぐに用意できるのだけれど……」

身体を離し、私の顔を覗き込んで思案しながらそう告げるの耳元に唇を寄せ私は囁く。

「―――食事よりも、君を味わいたい。今すぐにね―――」





「ふ……っ」

静まり返った部屋の中に甘い吐息だけが響く。私はをベッドのシーツに縫いとめ、その肌を味わっていた。私よりもひとまわりも若く美しい彼女と肌を重ねるのは、私にとって何物にも変えがたい至福のひと時だった。


這わせる指も舌も吸い付くような傷ひとつない白く滑らかな肌。そんな美しい肌に強く吸い付き、私は自分自身の軌跡を残すように赤いしるしをつけていく。清らかなものを穢すようなその背徳感さえ、今の私には媚薬の一つとなる。


にとって、私は初めての男だった。この肌を知っているのはこの世で私一人―――。

そのことに己の支配欲がたまらなく満たされるとは、なんと自分は単純で愚かな男なのだろうと思う。




「あ……!」

色をつけ立ち上がった頂を指で掠めれば、の口から甘い声が上がった。それに気を良くした私は、形のいい柔らかなその胸を手のひらで揉みしだきながら今度はそれを舌で舐った。彼女から立ち上る甘い香りが、ますます私を惑わせていく。

「ふ……っ」

口元を手の甲で塞ぎ、相変わらず必死に声を上げるのを堪えようとするを見遣る。どうせならその私しか知らない甘く艶めかしい声をもっと聞かせて欲しいのだが、まだ身体を重ねることに慣れていない彼女だからこその反応だと思えばそれさえも愛おしい。



私の指先がの最も熱い部分を捉えると、彼女はもう我慢することも忘れ、艶やかな声を上げた。

「……ザルガバース……っ!」

の中で蠢く指と比例するように、彼女の吐息も溢れ出す蜜も熱をおびていく。そしてまるで何かを強請るようにの腰が揺らめき始めた。

「どうしたんだい、……」

私はわざと彼女の耳元でそう尋ねる。わかっているくせになんと意地の悪いことをするものだと心の奥で自嘲するが、の口からその答えを聞きたいという欲求を抑えられなかった。


「ん……あ……っ」

息も絶え絶えに喘ぎながら、は私の言葉に目をぎゅっと閉じて首を振る。

「言ってくれないとわからないよ……さあ、どうして欲しい?」

私は抵抗を続けるを快感の渦中に誘い続けながら、熱い吐息と嬌声をもらし続ける桜色の唇を見つめた。


さあ、その唇で私を求めるがいい―――。


「っ、お願い……っ、欲しっ……あなたが、欲しい……っ」


快楽からか羞恥からか、はその美しい瞳から涙を流し、ついに自ら私を欲した。ぞわりと、私の背中をえもいわれぬ興奮が駆け上がる。


「―――いい子だ」


私は待ち構えていたとばかりに、先ほどから熱く猛って仕方のなかった男根で一気に彼女を貫いた。

「ああっ……!」

待ち望んだ刺激を受け止め、が背中を仰け反らせて身体を震わせる。

「くっ……」

温かなその内壁に一気に根が締め付けられ、思わず声が漏れた。

余裕がなかったのはだけではなかったようだ。だがここで終わらせるわけにはいかない。

私は一気に上り詰めそうになるのをぐっと堪え、余裕がある素振り見せながらゆっくりと腰を動かしていく。

「あ、あ……っ、あ!」

私の動きに合わせて声を上げるを、私はじっと見つめた。私の下でほのかに色づいている身体。瞳はぎゅっと閉ざされ、頬はばら色に染まり、開いた唇の向こうに艶かしい小さな舌が見えた。私は吸い寄せられるようにの唇に深い口付けを落とし、その舌を吸った。

「……んんっ……!」

苦しそうな息を漏らしながらも、必死に私に応えるようにの舌が私のそれに絡まる。その瞬間、質量を増した私の根にの身体がびくりと震えた。

「あ、あっ……ザルガバース……!」

唇の端からこぼれた唾液もそのままに、快楽に身を震わせて必死に私にしがみついてくる彼女の、なんと妖艶なことか。

「……く……っ、……っ!」

私はと共に高みへと上り詰めていくために、ただひたすらにその美しい身体を突き上げ続ける。





肌も吐息も、互いのすべてを溶け合わせて、さあ快楽の海に溺れよう。

夜はまだ、始まったばかりなのだから―――。



2011.4.24