sweet sweet holiday



2週間ぶりの休暇が取れた日、恋人にどこに行きたいかと尋ねると「お家でのんびりしたい」という答えが返ってきた。

「どこかに出かけたくはないのかい?」
「うん、特に行きたいところも、欲しいものもないし。だからゆっくりしよう?」

つい先日ウォースラに「あまり構わないでいると愛想をつかされるぞ。たまには遠出でもして喜ばせてやれ」と脅しのようなアドバイスを受けたばかりだったせいで、の返答に俺は拍子抜けしてしまった。



少し遅い昼食を取ってから、リビングで思い思いの時間を過ごす。俺は最近手にしたばかりのタガーの手入れをし、は俺の部屋に持ち込んだまま手付かずだった本を読んでいた。夕食の食材はが腕によりをかけて作ってあげるからと、この部屋へやってくる時にもう買ってきてくれている。

特に会話を交わすこともなく時間が流れていくが、それは決して不快なものではない。それぞれの世界に浸りながらも、相手の存在を確かにそこに感じているし、それが心地いいと感じているのは俺だけではないはずだ。時折絡む視線と向けられる笑顔が、それを証明している。



開け放した窓から風が入ってくるのを頬に感じるのと同時に、左半身に触れる熱に気づく。

「読書はもう終わったのかい?」

タガーを鞘にしまいながら、俺の身体に寄りかかってくるに問いかけた。

「うん。なんだか思っていたよりおもしろくなかったの。あんなナルシストな男に恋をする主人公の気が知れないわ。どうしてあんな話が皆好きなのかしら」

どうやら彼女は今ラバナスタで評判になっている恋愛小説を読んでいたらしい。同じ表紙の本をアーシェ様がひそかに読んでいたのを思い出す。

「ナルシストな男は嫌い?」
「嫌いよ。ついでに自信家な男も嫌い」
「そうか、それは気をつけなければならないな」

苦笑いを浮かべてそう言えば、は「バッシュは全然そうじゃないから大丈夫」と笑って俺の腕に自分の腕を絡めてきた。擦り寄るその仕草がまるで猫のようで、思わず笑みが浮かぶ。

「でもバッシュなら、なんでも許せちゃうかも」

そう言って、は首を伸ばして俺の鎖骨に唇を当てた。それが少しくすぐったくて笑顔をかえせば、気を良くしたのか今度は身体を浮かせて首筋や頬に次々とキスを落としてくる。そして最後に、ちゅ、と愛らしいリップ音を残して顔を離した彼女の腕をそっととった。

「これは誘われているととってもいいのかな?」
「うん、そうかもしれない」

恥ずかしそうな笑顔を向けているの唇にお返しのキスをして、俺はの身体を両腕で抱き上げた。



をベッドに横たわらせると、まだ高い場所にある太陽の陽射しが足元を照らしていた。俺の重みが加わったスプリングがぎしりと音を立てる。

「こんな明るいうちからこんなことするなんて、なんだかいけないことしてるみたいね」

俺の腕の下で、が少しも悪びれた風でもなくそう言った。

「やめておこうか?」

コツンと額をあわせてそう尋ねると、は頬を膨らませて「意地悪」と口を尖らせる。

「もしかして、こうしたくて部屋にいたいって言ったのかい?」

からかうような俺の問いかけに、は情欲の混じった瞳を向けてから俺の首にすがるように腕を回した。

「バッシュをこうやって独り占めしたくて仕方がなかったの」



耳元でそう告げたの言葉に、愛おしさと欲をかきたてられずにはいられようか。

「前言撤回だ。どうやら俺ももう限界らしい」



今夜の彼女の手料理はお預けになるかもしれないと頭の隅で思いながら、久方ぶりの彼女の香りを俺は胸に吸い込んだ。



2012.8,27