眩しすぎるのは太陽じゃなくて
ジュゥゥ―――
……あれ?なんだろう。何の音?それになんだか、いい匂い……
まだ半分夢の世界にいる頭で、私はぼんやりと思った。
確か昨日は、仕事は休みだったけど、風邪をひいちゃったパンネロの代わりにミゲロさんのお店を手伝って…それで、家に帰ったら確か―――
目を閉じたまま、そっと手を伸ばしてみたけれど、触れたのはひんやりとしたシーツだけ。
「……っ、バルフレア!?」
急いで身体を起こしたけれど、隣で眠っているはずの姿はそこにはなかった。
嘘……もう行っちゃったの?
「……1ヶ月ぶり、だったのに」
「、何ひとりで言ってんだ?」
がっかりして再びベッドに身を沈めた瞬間、頭上から降ってきた声に、驚いて顔を向けた。
「バルフレア……!」
「どうした?何かあったのか?」
「……ううん、なんでもない」
まだここにいてくれたことに、ほっと胸をなでおろす。空賊として、イヴァリース中を飛び回る彼だから、一緒に過ごす時間は普通の恋人同士よりもものすごく少ない。寂しくないって言うのは嘘になっちゃうけれど、飛空挺を降りたら真っ先にこうやって会いにきてくれるから、会えない日々だって頑張れる。
横になったままの私の頭を撫でてくれるバルフレアの手が心地よくて、私は目を閉じてその感触を味わっていた。
「おはよう、」
そう言って、私のこめかみにキスをくれたバルフレア。
「で?」
「んー……?」
頭を撫でていた手を止められてしまったので、少し恨めしげな目でバルフレアを見る。
「お姫様はいつまで眠っているつもりだ?」
「ん、もう少し……」
やれやれ、とバルフレアは肩をすくめて見せてから、私の顔を覗き込んだ。
「昨夜は随分無理させたからな。まあ、ご希望とあらばまた…」
「お、お、起きる!起きます!」
慌ててベッドから起き上がれば、いつもの不敵な笑みのバルフレア。真っ赤になった私の顔をおかしそうに眺めている。こういうところは、すごく意地悪だ。
「なんだ、残念」
にやり、と笑って昨日ベッドの脇に脱ぎ散らかした(というか、脱がされた)ままのシャツを私に差し出した。
「まずはシャワーを浴びてこい。とっておきの朝飯を用意しておくぞ」
「んー!美味しい!」
シャワーを浴びて戻ってきた私の目に飛び込んできたのは、テーブルに並べられた美味しそうな朝食。コーヒーにサラダ、トーストにスクランブルエッグ。シンプルだけれど、どれも味は抜群だった。
「ホント、バルフレアってなんでも出来ちゃうのね」
「そりゃどうも」
同じ朝食を優雅に口に運ぶバルフレアを見つめながら、私はコーヒーを一口ごくん、と飲んだ。
「ね、いつ出発するの……?」
いつもであれば3日、長くても1週間で次の旅へと飛んでいってしまうバルフレア。きっとまたすぐお別れなんだろうと思って問いかけてみれば、返ってきたのは予想外の答え。
「1ヵ月後になるな」
「1ヶ月!?」
「ああ、シュトラールのメンテナンスをするんだ。ついでにちょっといじろうかと思って。――なんだ?不満か?」
私は強く首を振った。
1ヶ月も一緒にいられるなんて、もしかしたら初めてかもしれない。
「嬉しいか?」
にやりと笑って私の頭を撫でるバルフレアに、思わず笑みがこぼれる。
「うん!だって、その間、こんな美味しい朝ごはんが食べられるんでしょう?」
「なんだ、俺はコックじゃないぞ」
「痛っ!もう、ほっぺたつねるのやめてよっ」
あのね、バルフレア。
一緒に朝ごはんを食べられることも、買い物に出かけられることも、寝るまでの間のくだらないおしゃべりも、もちろん嬉しい。だけど、いちばん嬉しいのは、朝起きた時に隣にあなたがいてくれることなの。
目が覚めて、最初に「おはよう」を言うのがあなただなんて、最高じゃない?
2010.1.15